東京高等裁判所 昭和60年(ネ)806号 判決 1985年7月25日
控訴人 三河正美
<ほか一名>
右両名訴訟代理人弁護士 長谷川朝光
被控訴人 東都信用組合
右代表者代表理事 泰道三八
右訴訟代理人弁護士 古城磐
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人ら
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
との判決を求める。
二 被控訴人
主文第一項と同旨の判決を求める。
第二当事者の主張
一 被控訴人の請求の原因
1 訴外佐藤明男(以下「訴外佐藤」という。)は、昭和五六年六月二五日、被控訴人との間において、被控訴人が訴外株式会社日本コテージ(代表取締役訴外佐藤。以下「訴外会社」という。)に対して取得する信用組合取引による債権、手形・小切手上の債権及び保証委託契約取引による債権を担保するため、訴外佐藤所有にかかる別紙物件目録記載の不動産(以下「本件不動産」という。)について権権極度額一、三〇〇万円の共同根抵当権設定契約を締結して、同月二六日にその旨の共同根抵当権設定登記を経由し、同年九月三〇日に右債権極度額を三、五〇〇万円に変更する旨の合意をして、同年一〇月一日にその旨の登記を経由した(この共同根抵当権を以下「本件共同根抵当権」という。)。
2 ところが、訴外佐藤は、昭和五八年四月一五日に本件不動産を控訴人三河正美(以下「控訴人三河」という。)に売り渡して同月二一日にその旨の所有権移転登記を経由し、また、控訴人三河は、同年八月一日、控訴人加藤義明(以下「控訴人加藤」という。)との間において、本件不動産のうちの別紙物件目録一記載の建物(以下「本件建物」という。)については原判決添付の登記目録一記載のような約定により、右物件目録二記載の土地(以下「本件土地」という。)については右登記目録二記載のような約定により、これを控訴人加藤に貸し渡す旨の賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結して、同月三日に右登記目録一、二記載のとおりの賃借権設定仮登記(以下「本件仮登記」という。)を経由した。
3 被控訴人は、昭和五八年六月一五日、訴外会社との保証委託契約に基づいて、訴外会社の商工組合中央金庫に対する債務五〇〇万一、六〇五円を右金庫に弁済し、また、訴外会社の全国信用共同組合連合会に対する債務四、一七三万一、八三〇を右連合会に弁済して、訴外会社に対してこれらの合計四、六七三万三、四三五円の求償金債権及びこれに対する同年九月一日から支払い済みに至るまで年二割五分の約定割合による遅延損害金債権を取得し、本件共同根抵当権に基づいて本件不動産につき抵当権実行による競売の申立(東京地方裁判所昭和五九年【ケ】第一三五号)をして、現在競売手続が進行中である。
4 ところで、東京地方裁判所が前記競売申立事件において本件不動産について定めた最低売却価額は三、二八五万円であって、本件共同根抵当権の債権極度額にも満たず、また、本件賃貸借契約は、賃料前払いの特約が付されているなど抵当権者にとって著しく不利なものであって、それが抵当権者たる被控訴人に損害を及ぼすものであることが明らかである。
5 よって、被控訴人は、民法三九五条但書の規定により、控訴人三河と同加藤との間の本件賃貸借契約の解除を求めるとともに、控訴人加藤に対して本件仮登記の抹消登記手続を求める。
二 請求原因事実に対する控訴人らの認否
1 請求原因1の事実中、本件不動産について被控訴人主張の各登記がされていることは認めるが、その余の事実は知らない。
2 同2の事実は、認める。
3 同3の事実は、知らない。
4 同4の主張は、争う。
本件不動産は訴外佐藤が昭和四九年八月二日に代金四、三五〇万円で買い受けたものであり、その後六、〇〇〇万円での買い手もあったほどであるから、本件不動産の価額が本件共同根抵当権の債権極度額にも満たないということはありえない。
また、被控訴人は、昭和五七年四月一六日、訴外佐藤武明との間において、本件共同根抵当権と同一の債権を担保するため、同人所有にかかる原判決添付の物件目録三及び四記載の不動産について債権極度額二、五〇〇万円の共同根抵当権設定契約を締結しており(この共同根抵当権を以下「別件共同根抵当権」という。)、本件共同根抵当権及び別件共同根抵当権の債権極度額合計は被控訴人が訴外会社に対して有する被担保債権額を上回るのであるから、本件賃貸借契約が被控訴人に損害を及ぼすことはない。
第三証拠関係《省略》
理由
一 請求原因1の事実中、本件不動産について被控訴人主張の各登記がされていることは当事者間に争いがなく、右事実と《証拠省略》を総合すると、同1のその余の事実を認めることができる。また、同2の事実は当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、同3の事実を認めることができる。
二 そこで、本件賃貸借契約が本件共同根抵当権の抵当権者である被控訴人に損害を及ぼすものであるかどうかについて検討すると、先ず、《証拠省略》によれば、被控訴人の申立にかかる前記東京地方裁判所昭和五九年【ケ】第一三五号競売申立事件において、評価人北岡三雄は本件建物の価額を二、二七一万円(ただし、本件建物一階部分については訴外佐藤が使用貸借契約に基づいて占有し、同二階部分の一部については控訴人加藤からの転借人訴外安田忠次及び同中島健次が、その他の部分については訴外佐藤からの賃借人訴外川島慎也が、それぞれ占有しているものとして、これによる一割五分の占有減価を行ったもの。)、本件土地の価額を九〇〇万円、別紙物件目録三及び四記載の各土地の価額をそれぞれ五七万円と評価し、これに基づいて東京地方裁判所は本件不動産の最低売却価額を三、二八五万円と定めたことを認めることができるところ、右評価額及び最低売却価額は、《証拠省略》に照らして、適正なものということができる((《証拠省略》によれば、訴外佐藤は昭和四九年八月二〇日に本件不動産を代金四、三五〇万円で買い受けたものであることが認められ、また、右証人は六、〇〇〇万円での本件不動産の買い手があった旨を証言するけれども、一般市場価格と不動産競売における売却価額との間には一定の乖離の存在することが否定しえない現実である以上、本件不動産の買受価格が右のとおりであり又はたまたま六、〇〇〇万円での買い手があったとの一事をもって直ちに右評価額及び最低売却価額が不相当なものであるとすることはできない。)。
このように、本件不動産の最低売却価額は本件共同根抵当権の債権極度額及び被担保債権額を下回るものであるうえ、本件賃貸借契約は、賃料前払いの特約及び賃借権の譲渡又は転貸ができるとの特約を伴うものであるから、特段の事情のない限り、抵当権者たる被控訴人に損害を及ぼすものと推定すべきところ、右推定を左右するに足りる証拠はない(なお、控訴人らは、被控訴人が本件共同根抵当権と同一の債権を担保するため訴外佐藤武明所有の不動産について債権極度額二、五〇〇万円の別件共同根抵当権の設定を受けており、本件共同抵当権及び別件共同根抵当権の債権極度額合計は被控訴人が訴外会社に対して有する被担保債権額を上回るのであるから、本件賃貸借契約が被控訴人に損害を及ぼすことはないと主張するけれども、本件共同根抵当権と別件共同根抵当権とがいわゆる累積根抵当の関係にあることは右主張自体に照らして明らかであって、このような場合、抵当権者は原則としていずれの根抵当権の目的たる不動産から優先弁済を受けることとするかを選択することができるものであるばかりか、先に認定したところによれば、本件共同根抵当権及び別件共同根抵当権の債権極度額合計が被控訴人が訴外会社に対して有する被担保債権額を上回ることはないのであるから、いずれにしても控訴人らの右主張は失当である)。
三 そうすると、控訴人らに対して本件賃貸借契約の解除を求め、控訴人加藤に対して本件仮登記の抹消登記手続を求める被控訴人の本訴請求はいずれも理由があり、これを認容した原判決は正当であって、本件控訴は失当であるから、これを棄却することとし、控訴費用の負担については民事訴訟法九六条、八九条及び九三条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 西山俊彦 裁判官 越山安久 村上敬一)
<以下省略>